森田療法の実践

まずは「症状中心」の生活から「目的中心」の生活へ

神経症になってしまうと、何かと症状を中心に行動してしまいます。しかし、それは症状の進行を助長させる行動でもあります。不安や症状を何とかしたい!という一心で、不安や症状を起こさないような行動をする。そして、どんどん行動範囲が狭くなってきて、がんじがらめにとらわれてしまう。これが神経症のカラクリです。

不安や症状というものは、本当に辛いものですよね。しかし、これは何をしようが、どう対策しようが、どうにもならないんです。「どうにもならないことを知る」のが森田療法なんですが、これがなかなか難しい。頭で理解するものではありません。体で理解するものです。とにかく何でもいいから行動を起こして、不安や症状にブチ当たり、それらがどうにもならないことを体で知ることが大切です。そこで出てくるのが「目的中心」の行動。「症状中心」の行動とは、不安や発作を起こさないために、あらゆる回避行動をとることです。乗り物に乗るのを避けたり、ちょっと不安だからと言って家に閉じこもったり。これらの消極的な行動は全て神経症の悪化につながります。神経症とはそんなものなんです。反対に、「目的中心」の行動とは、回避行動を一切とらず、不安があろうが発作が起きようが、何があろうが、それらを一切「無視」し、目的を達成するために突き進んでいくことです。この積極的な行動こそが、神経症という「悪循環」を断ち切るのです。言うのは簡単ですが、実践は非常に辛いものがあります。すさまじい予期不安、苦しい発作、不愉快な症状・・・。切りがありません。しかし、それらの自分にとって不都合なものたちは、何をやっても抑えることができません。特に、予期不安というものはものすごい力を持っています。「また発作が起きるかも知れない・・・」というものですが、正に100%当たる予言のごとし。そしてこの予期不安に負けてしまい、逃げてしまったりしてしまうんです。

しかし、この予期不安というものは、100%当たる予言ではありません。当たる根拠も何もない単なる気分なんです。単なる気分でありながら、行動を制限してしまうほどのすさまじい力を持っている。非常にやっかいです。

目的中心の行動では、この予期不安でさえも無視するのです。目的なんか何でも構いません。仕事に行く、学校に行く、用事があるなら電車に乗る、バスに乗る、掃除をする、洗濯をする、育児にはげむ・・・。このような日常的な行動以外でも、やりたいことがあれば、それが目的になります(欲望のままに生きる)。

煩悶即解脱

目的中心の行動をしていると、強い不安に見舞われたり、激しい発作に襲われることが少なからずあります。そのような事態に陥ってしまった時、つい「何とかしなければ」と回避行動をとりますが、この回避行動こそが神経症を悪化させると先にも書きました。不安や発作の真っ最中でも、回避行動をとってはいけません。回避しようとすればするほど、さらに強く不安や発作が襲ってきます。ではいったいどうするか? 何もしなくていいんです。不安や発作に襲われるがままでいていいんです。対処しないことが、唯一の対処法です。そして「ああ、もうどうにもならない・・・。もうダメだ・・・」と絶望し、全ての対処をやめた瞬間、それらの不安や発作から解放され、生き返ったような素晴らしい気分になります。これが煩悶即解脱です。

不安や発作に対して、ついつい何かと対処してしまいがちですが、半端な対処は悪循環を悪化させるだけで、何もいいことはありません。とにかく、何も対処しなくていいんです。それは対処法がないからです。対処法がないことを(体で)知る。そして一切の対処をしない。これこそが、不安や発作を急速に終息させる唯一の対処法なんです。

はからいを捨てる

「はからい」とは、不安や発作を抑えるための(実際はほとんど抑えられない)、日常生活では不必要な行動のことです。例えば、一人で車を運転しているのは不安だから、その不安を紛らわすために、前を走っている車のナンバーの数字を足したり引いたりして計算する。意味もないおまじないをブツブツ言う。仕事中に携帯テレビゲームで気を紛らわす。等々。どう考えても、不自然で不必要な行動ですよね。これらの行動は全て、「不安や発作をどうにかするための」ものです。「不安のための」、「発作を抑えるための」行動というものは、実行すればするほど、余計に不安や発作に対する執着心を高め、結果として悪化につながります。このような無駄な行動、「はからい」は全て捨て去ってしまうのが一番いいんです。

外側から正す

「神経症が治ってからやるべきことをやろう」というのは、「泳ぎ方を頭で理解してから泳ごう」ということと同じであって、全くもって滑稽なことです。頭で泳ぎ方を理解したから水につからずしてすでに泳げるなんて人はいません。まずはみんなおそるおそる水につかり、少しずつ慣れていって、泳げるようになるものです。外側(行動)から入っていくものですよね。神経症治療でも同じです。まず生活や行動を正すことが大切です。外側を正すことによって、内側(心)も正される。外側を正さない限り、内側は正されないのです。理想は内側を正したら外側も正されるですが、そんなことは無理です。内側を正すということは、後に書きますが「直接的に治す」ということです。直接的に治そうとしても、神経症は治りません。外側から正していくのが大切なんです。

全てを受け入れる

対処をしないということは、今起きている不安や発作を回避せず、その存在を認めているということになります。人間という生き物は、自分にとって都合のよいことはすぐに受け入れますが、不都合なことはどうにかして避けたいと考えます。これはごく当たり前のことであって、誰でもそうであるはずです。特に神経症者は、自分にとって非常に不都合な不安や発作を極度に嫌い、回避しようとします。何度も書きますが、回避行動は神経症を悪化させるだけで百害あって一利なし。10日後の1万円より今日の10円という感じですね。その場凌ぎに過ぎません。ですから、神経症を完治させるには、その「自分にとって非常に不都合なもの」さえも受け入れる必要があります。というか、受け入れるしかないんです。回避しようとせず、そのまま受け入れることのほうが、実は非常にラクなことであり、神経症を治す上でとても大切なことなんです。これは別ページの「1+0=1」という話につながりますので、今一度読んでみてください。回避すればするほど、ひどくなっていくのは今まででもうずいぶんと体験したんじゃありませんか? ここでちょろっと心を入れ替えて、全てを受け入れてみてください。ラクチン、安心はもちろん、不安や発作もです。実際に受け入れてみると、回避するよりも全然ラクなことが分かるはずです。

「建設的」に生きる

「建設的に」とは、気分や感情などの心理状態を一切無視し、そのままにしておいて、今やるべきことをやる、ということです。神経症者は、不安や発作などの神経症状をどうにかするためにすごいパワーを発揮しますが、「どうにかするためにパワーを発揮する」のが間違いなんです。パワーを発揮する矛先が間違っています。その「ものすごいパワー」を建設的に生きる方向に向けてみてください。そして、それをしばらく続けてみてください。そうすることによって、「神経症」という悪循環から離れられるようになり、結果的に悪循環を断ち切り、治癒へとつながるんです。

「人間」を目指そう

一般的な神経症者は、ごく当たり前である不安や体調不良でさえも、「あってはならないもの」として回避・排除しようとします。では、回避・排除できたらどうなってしまうのでしょうか? 結果は「ロボット」です。ロボットは不安も体調不良もありません。正に100%。人間は誰でも100%を目指しますが、デジタルなロボットやコンピューターとは違い、人間はアナログです。100%はありえません。その、ありえない100%を目指してしまうのが、神経症の特徴です。100%を目指し続けている限り、神経症は治りません。「100%は無理だ」と分かった瞬間、神経症から解放されます。100%ではないのが人間なんです。それでも、あなたは100%を目指しますか? ロボットになりたいですか?

消極的な行動は全て禁止

神経症における消極的な行動とは、症状などの愚痴を言う、泣き言を言う、必要もないのに症状の解説をする、逃げる、逃げ場を用意しておく、発作が起きた時の準備をする、などです。これらの行動は神経症の悪化につながり、それこそこれらの行動を続けていると、まず治りません。「厳しい!」と思われることでしょう。でも考えてみてください。神経症になる前、あなたはこれらの消極的な行動をとっていましたか? ほとんどの人が、「以前は今と比べられないくらい元気で活動的だった」と言います。それほど活動的だった人が、これらの消極的な行動をとっていたでしょうか? これらの行動は、全て「症状のための行動」。先に「はからいを捨てる」でも書きましたが、「不安、発作のための」行動は、何の意味もなく、やっていても良いことは全くありません。これらの消極的な行動とは反対の、「積極的な行動」をとることが、神経症の治癒につながっていくんです。

そして「直接的に神経症を治す行動」はやめる

神経症とは心のカラクリであり、とらわれという悪循環に陥っている状態です。器質的(科学的)な病気ではありません。直接的な治療では治らないんです。直接的な治療は、回避行動や、はからいと同じで、その場凌ぎに過ぎません。だから治らないんです。まずは、不都合ではあるけれども、間接的に、外側から正していくようにしていきましょう。間接的に、と聞くと遠回りのような感じがしますが、直接的よりも何倍も近道なんですよ。

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